大判例

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東京高等裁判所 昭和55年(ラ)169号 決定

抗告人

甲野太郎

右法定代理人親権者母

乙山光子

右抗告代理人

仲田晋

外二名

相手方

甲野花子

外一名

主文

本件抗告を棄却する。

理由

一本件抗告の趣旨は、「原審判の主文一項の2の部分を取り消し、更に相当の裁判を求める。」というにあり、その理由は、別紙「抗告の理由」記載のとおりである。

二そこで考察するに、被相続人芦塚義富の遺産の分割に関する当裁判所の事実上の認定及び法律上の判断は、原審判書記載の「理由」のうち、同審判書五丁目表面一四行目の「東京都共済組合」及び同六丁目表面六行目の「東京都職員組合」を「東京都職員共済組合」と、同六丁目表面一行目の「全命保険契約」を「生命保険契約」とそれぞれ訂正し、同七丁目表面一〇行目の「共同相続人……」から同一一行目の「……むしろ」まで及び同丁目表面一三行目の「(3)民法一〇四四条は……」から同裏面五行目の「……考えられること、」までをそれぞれ削除し、同七丁目裏面五行目の「(4)」を「(3)」と訂正し、同八丁目表面九行目の「共同相続人……」から同一〇行目の「……むしろ」まで及び同丁目表面一一行目の「、(3)……」から同裏面三行目の「……生ずること」までをそれぞれ削除し、同一〇丁目表面一三行目の「東京都」を「東京都等」と訂正するほかは、右「理由」記載のとおりであるから、これをここに引用する。

そうすると、いずれも右と異なる見解に立つ別紙「抗告の理由」記載の主張は採用することができないというべきであるし、また、その他に原審判を違法とすべき事由は見出すことができない。

三よつて、本件抗告は、その理由がないので、これを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(沖野威 奥村長生 佐藤邦夫)

「抗告の理由」

原審判は、以下の点において、法令の解釈適用を誤つている。

(第一点)

一 原審判は、その四分の一の持分権が本件相続財産の一つとなる建物(原審判の目録3記載の建物にして、山田一郎に賃貸中のもの)に関して、本件相続開始後現在までに相手方はる子が山田一郎から受領した家賃について、「相続財産と同時に分割することによつて権利の実現が簡便に得られるなどの合理性が認められる」とされながら、結局これを本件遺産分割の対象とすることについて相続人間の合意なるものが認められないとして、本件貴産分割の対象から除外した違法がある。

二 原審判は、相続財産とその果実を峻別するのあまり、その分割の方法までも、原則的には各別の訴訟手続によるべきであるとするが、あまりにも形式的な見解であつて、相続人各人の権利の実現を無用に煩雑化させたものである。

かりに、原審判の見解に従うとしても、本件家賃収入を『例外的に遺産分割の対象とすることも許される』場合にさえも該当しないとすることは『木を見て、森を見ざる』類のものといわなければならない。

原審判は、『訴権保障の観点』なるものを力説し、あまりにも相手方はる子の『訴権保障』なるものに眩惑されているが、相手方はる子は、裁判所の再三にわたる呼出に応ぜず、また家庭裁判所調査官の度重なる出頭勧告を無視するなどして司法の権威を傷つけ続けてきたばかりでなく、申立人側の主張を知悉しながら(とくに一時期とはいえ弁護士に訴訟追行を委任していた)何ら具体的反論もなさず、争う態度を示さず、かつ本件審理をいたづらに遅延させてきた人物である。かかる態度は、弁論の全趣旨として、きびしくマイナスの作用をこそもたせるべきであつて、同相手方にとつて保障すべき訴権などと論ずる余地は全くない。

一方、申立人および相手方花子は、勉学のために経済的援助と静穏な環境を最も必要とされる時期に亡父の遺産の分割を受けられないまま、長期間にわたり不遇な生活を余儀なくされてきたのである。

三 以上の事情をみただけでも、原審判は遺産分割の制度的意味を没却し、民法九〇六条の解釈適用を誤つたものといわなければならない。

(第二点)

一 原審判は、被相続人の死亡により、東京都が相手方はる子に支払つた退職手当金(金九、四二七、五八〇円)および遺族年金(昭和五四年八月までの合計金三、〇二二、五六六円)、日本生命保険相互会社が申立人に支払つた生命保険金(金七〇〇、〇〇〇円)、朝日生命保険相互会社が相手方花子および相手方はる子に支払つた各生命保険金(いずれも金二、二九三、〇七〇円)は、いずれも各受取人が固有の権利にもとづいて支払を受けたものであるとして、これらをいずれも本件遺産分割における相続財産に該当しないとした違法がある。

二 本件事案については、抗告人は次の事情を充分に理解したうえ、退職手当金、遺族年金(ないしは遺族扶助料、以下同じ)および生命保険金の相続財産性が検討されるべきである旨の主張をくりかえしてきた。

すなわち、第一には被相続人の子である申立人および相手方花子と、被相続人の後妻である相手方はる子の間には、法律上親子(養親子)の関係がなく、したがつて扶養の関係も、相続の関係も生じないということであり、第二には同人らは事実上も、かつて共同して家庭生活をなした事実は全くないし、将来において共同生活をする可能性も全くないということである。

もともと、相続人間に親族関係がある以上、遺産分割にあたつて、退職手当金、遺族年金および生命保険金などについて、これを相続財産と認めようが否定しようが、また特別受益分と認めようが否定しようが、原則的には問題は生じない。何故ならば、母親は子を扶養し、母親の財産は子によつて相続されるからである。

三 退職手当金や遺族年金などに関する関係諸法条が、順位を定めて受給資格者を定めているのは、相続人間に親族関係が存する通常の場合を想定しているのであつて、本件のごとく親族関係の存在しない特殊の場合をも想定しているものではない。

したがつて、かかる場合は、いわゆる法の欠缺の問題として取り扱われるべきものである。

いうまでもなく、憲法秩序のなかにあつて、条理にかなつた解釈がなされなければならない。

かくして、この点に関する原審判の態度は、憲法秩序なかんづく平等原則に対する公然たる挑戦であり、退職手当金や遺族年金制度の本来の意義を無にするものとして糾弾されなければならない。

(第三点)

一 原審判は、前記の退職手当金、遺族年金および生命保険金がいずれも相続財産として認められないとするならば、いずれも特別受益分として認めるべきところ、これを否定した違法がある。

二 この点に関する原審判の違法事由については、前記第二点に関する主張をすべて援用するほか、その他の事由については追つて、補充する。

〈参照〉

【原審判理由】

(東京家裁昭五〇(家)第三〇二九号、遺産分割申立事件、昭55.2.12審判)

〈編注・抗告審で削除した部分は( )で示す。抗告審で指摘した誤植はそのとおり訂正ずみである〉

一相続開始及び共同相続人

〈証拠〉によると、被相続人甲野一男は生前東京都庁に勤務し東京都職員組合の役員をしていた者であるところ、昭和四八年一〇月九日東京都板橋区において死亡したこと、相手方甲野花子(昭和三五年三月一三日生)及び申立人(昭和三七年七月一七日生)は被相続人とその先妻乙山光子(昭和四五年二月一四日協議離婚)との間の長女及び長男であり、相手方甲野はる子(以下単に相手方はる子という。)は被相続人と昭和四七年二月一〇日婚姻した同人の妻であることが認められる。

したがつて、昭和四八年一〇月九日被相続人につき相続が開始し、その妻相手方はる子、長女相手方甲野花子(以下、単に相手方花子という。)及び長男申立人の三人が共同相続人である。

二本件申立ての経緯及び相続分

家庭裁判所調査官仲地章の昭和四九年一一月一六日付調査報告書、証人乙山光子の証言、その他本件記録によると、本件相続開始後、当事者間で遺産分割の協議ができないため、申立人の法定代理人(親権者母)である乙山光子から昭和四九年三月一一日相手方はる子に対し当庁に遺産分割の家事調停の申立てがなされ、昭和五〇年四月二二日調停不成立となり、審判に移行したことが認められる。また、被相続人が遺言により相続分の指定をしたことを認める証拠はない。

したがつて、法定相続分によつてなすべきところ、各当事者の法定相続分は、いずれも各3分の1である。

三相続財産の範囲

1 〈証拠〉によると、本件相続開始当時、別紙目録〈省略〉1、3及び4記載の各土地、建物について各四分の三の共有持分は乙山光子に、各四分の一の共有持分は被相続人に帰属し、同目録2記載の土地について一八四分の三の共有持分は乙山光子に、一八四分の一の共有持分は被相続人に帰属していたことが認められる。

したがつて、本件相続開始当時、別紙目録1、3及び4記載の各土地、建物の各四分の一の共有持分並びに同目録2記載の土地の一八四分の一の共有持分が被相続人の相続財産である。

2 申立人代理人は、別紙目録3記載の建物は被相続人の生前から山田一郎に賃貸されて現在に至つており、本件相続開始後現在まで同建物の家賃収入の四分の一は相続財産とみなされるべきであると主張する。

〈証拠〉によると、別紙目録3記載の建物は被相続人の生前から山田一郎に賃貸されており、相手方はる子は、本件相続開始後上記建物の賃料を同賃借人から受け取つていることが認められる。

相続開始後遺産分割までの間相続財産たる上記建物から生ずる家賃は、相続財産そのものではない。また、遺産分割は相続開始時に遡及して効力を生ずるが、これは遺産分割により共同相続人中の一部の相続人に帰属した財産を被相続人から当該相続人に直接承継されたものとするための擬制であり、それによつて相続開始後遺産分割までの間相続財産から生ずる家賃が遺産分割によつて上記建物を取得する当該相続人に当然に帰属するものと解すべきでない。これらの家賃は、相続財産の果実であり、相続人が複数いるときには、相続財産におけると同様な持分による共同相続人間の共有財産であるが、相続財産とは別個の共有財産であり、その分割又は清算は原則的に訴訟手続によるものと解するのが相当である。もつとも、これらの家賃が相続財産と同様の持分による共有財産であり、相続財産と同時に分割することによつて権利の実現が簡便に得られるなどの合理性が認められることを考慮すると、相続財産と一括して分割の対象とする限り、例外的には遺産分割の対象とすることも許されるものと解する。この場合、当事者の訴権を保障する観点からすれば、相続開始後遺産分割までの間の家賃を遺産分割の対象とするには、当事者間にその旨の合意のあることが必要であるというべきである。

これを本件についてみるに、相手方はる子は第一回審判期日(昭和五〇年六月一六日午後二時三〇分)に出頭したのみで、同相手方に対する審問の呼出しにも、また当庁家庭裁判所調査官による再三の出頭勧告にも応ぜず、相続開始後の家賃に関し本件遺産分割の対象とすることについてその合意は得られない状況にある。このような状況の下においては、相続開始後遺産分割までの間の家賃を本件遺産分割の対象から除外すべきものと思料する。

3 申立人代理人は、被相続人の死亡により、東京都が「職員の退職手当に関する条例」(昭和三一年九月二九日条例第六五号)第三条にもとづき相手方はる子に支払つた退職手当金九、四二七、五八〇円、同じく東京都恩給条例(昭和二三年九月二二目条例第一〇一号)第五〇条にもとづき相手方はる子に支給している遺族扶助料合計金三、〇二二、五六六円(昭和四八年一一月分から昭和五四年八月分まで)及び被相続人の死亡により、(1)受取人である申立人に対し日本生命保険相互会社から支払われた生命保険金七〇〇、〇〇〇円、(2)受取人である相手方はる子に対し朝日生命保険相互会社から支払われた生命保険金二、二九三、〇七〇円、(3)受取人である相手方花子に対し朝日生命保険相互会社から支払われた生命保険金二、二九三、〇七〇円は、いずれも相続財産に属する、と主張する。

〈証拠〉を合わせ考えると、被相続人の死亡により、相手方はる子は、東京都から申立人代理人主張のとおりの退職手当額及び東京都職員共済組合から申立人代理人主張のとおりの遺族年金額(ただし、円未満を切捨てると金三、〇二二、五六五円)の支払いを受けたこと、相手方はる子は被相続人の死亡当時被相続人と同居し、主としてその収入により生計を維持していたことが認められる。

〈証拠〉によると、相手方はる子が支払いを受けた退職手当について適用された上記「職員の退職手当に関する条例」第三条は東京都の職員の死亡による退職金をその遺族に支給する旨定め、上記退職金の支給を受ける遺族の範囲と順位を規定している第四条は配偶者を第一順位の受給資格者と定めていることが認められる。また、相手方はる子が支払いを受けた遺族年金について適用される地方公務員等共済組合法(昭和三七年一二月一目施行)第二条第四五条及び第九三条によると、組合員の死亡による遺族年金は組合員の遺族に支給され、遺族は組合員又は組合員であつた者の配偶者、子、父母、孫及び祖父母で組合員又は組合員であつた者の死亡当時主としてその収入により生計を維持していたものと定められ、給付を受けるべき遺族の順位は、配偶者、子、父母、孫及び祖父母の順序とする旨定められている。これによると、配偶者が第一順位の受給資格者ということになる。これら条例又は法律の定める受給資格者は、いずれも単なる受領代表者と解すべきではなく、受給権者と解すべきである。

したがつて、被相続人の死亡により、相手方はる子が、東京都から支払いを受けた退職手当及び東京都職員共済組合から支払いを受けた遺族年金は相手方はる子の固有の権利にもとづくものであるというべきであるから、被相続人の相続財産ということはできないものと解するのが相当である。このことは、相手方はる子と申立人及び相手方花子との間に血縁関係(母子関係)がないことにより左右されるものではない。

また、当庁の調査嘱託に対する朝日生命保険相互会社保険金部保険金課の「芦塚義富殿を被保険者とする生命保険契約について」と題する回答書及び証人乙山光子の証言を合わせ考えると、申立人代理人主張のとおりの生命保険契約にもとづき、受取人と指定された申立人、相手方はる子及び相手方花子がそれぞれ申立人代理入主張どおりの生命保険金を各保険会社から受け取つたことが認められる。

これらの生命保険金は、いずれも上記保険契約にもとづき保険会社から受取人である申立人、相手方はる子及び相手方花子がそれぞれ固有の権利にもとづき支払いを受けたものと解すべきであるから、被相続人の相続財産ということはできない。

四特別受益

申立人代理人は、上記退職手当、遺族扶助料及び各生命保険金が相続財産でないとしても、それらは少なくとも各受給者の特別受益とみるべきものである、と主張する。

1  まず、退職手当及び遺族年金について判断する。

相手方はる子に支払われた上記死亡退職手当及び遺族年金は、前者が一時金、後者が年金であるが、いずれも基本的には遺族の生活保障を主たる目的としたものであると解することができる。条例又は法律の定めにより、受給権者が固有の権利を有することは、すでに判示したとおりであるが、受給権者が共同相続人の一人であるとき、共同相続人間の衡平を図るため、これら退職手当又は遺族年金を特別受益に該当するとする見解も見受けられるところである。

しかしながら、(1)死亡退職手当に未払賃金の後払的な側面が含まれ、遺族年金に死亡者の出捐する掛金をもとにした給付の性格があるにしても、これらは、文理上民法九〇三条に定める生前贈与又は遺贈に当たらないこと、(2)受給権者である相続人が死亡退職手当又は遺族年金のほか相続分に応じた相続財産を取得しても、この結果は(共同相続人間の衡平に反するものということはできないし、むしろ)被相続人による相続分の指定など特段の意思表示がない限り、被相続人の通常の意思にも沿うものと思われること、((3)民法一〇四四条は遺留分に関し同法九〇三条を準用しているが、上記死亡退職手当又は遺族年金は遺留分算定の基礎に算入されながらも、減殺請求の対象にならないものと解され(減殺請求の対象になるとすると、受給権者の生活保障を目的とする条例又は法律の趣旨に牴触することになる)、その結果、他に贈与又は遺贈がないとき、遺留分侵害を受けながら減殺請求ができない場合が生ずるという不合理な結果が考えられること、(4))(3)遺族年金のような年金の場合には、特別受益額が遺産分割時期の偶然性により左右されることになり、またこれを避けるため受益者たる相続人の平均余命を基準に中間利息を控除して相続開始当時の特別受益額を評価することは受益額が事実に反し衡平に沿わない遺産分割の結果を招くおそれがあることなどの諸点に照らすと、上記退職手当及び遺族年金を特別受益と解する見解を採用することはできない。

2  次に、生命保険金について判断する。

各保険会社から受取人である申立人、相手方はる子又は相手方花子に支払われた生命保険金は、いずれも保険契約によるこれら受取人の固有の権利にもとづくものであることは、すでに判示したとおりである。受取人が相続人の一人であるとき、共同相続人の衡平を図るため、遺贈に準じ特別受益にあたるとする見解が見受けられる。しかしながら、退職手当等について述べたと同様に、(1)申立人らの受け取つた生命保険金は、被相続人と保険会社との間の保険契約にもとづき申立人らが受取人として保険会社から給付を受けたものであり、文理上民法九〇三条所定の被相続人の生前贈与又は遺贈に当たらないこと、(2)受取人である相続人が上記保険金のほかに相続分に応じた相続財産を取得しても、この結果は(共同相続人間の衡平に反するものとはいえないのみならず、むしろ)被相続人による相続分の指定など特段の意思表示がない限り、被相続人の通常の意思に沿うものと思われること、((3)保険金が遺留分算定の基礎に算入されながらも減殺請求の対象にならないものと解され(上記保険契約は被相続人と保険会社との間の契約であり、減殺によりこれを失効させたとしても、生命保険金が相続財産に、又は減殺請求権者に帰属することにならない)、その結果、他に贈与又は遺贈がないとき、遺留分侵害を受けながら減殺請求ができない場合が生ずること)などの諸点に照らすと、生命保険金請求権の取得が遺贈に類似した側面があるにしても、これを特別受益に当たるとする見解を採用することはできない。

五各相続人の取得額

以上のとおり、本件において、相続財産に持ち戻される特別受益は存しないから、各相続人の具体的相続分は法定相続分どおりである。

〈証拠〉を合わせ考えると、別紙目録1記載の土地上に同目録3及び4記載の各建物が建つており、同目録3記載の建物は玉井秀雄に賃貸中であり、同目録4記載の建物には相手方はる子が居住しており、同目録2記載の土地は道路敷地であるところ、昭和五五年一月二〇日現在同目録1記載の土地のうち同目録3記載の建物の敷地部分(五一、二八平方メートル)及び同建物の各四分の一の持分の評価額は合計金二、一四七、〇〇〇円(千円未満は切捨て)、同目録4記載の建物の敷地部分(五三、九四平方メートル)及び同建物の各四分の一の持分の評価額は合計金三、二五八、〇〇〇円であり(同目録2記載の土地は私道であり、その評価額は上記各評価額に含まれる。)、結局昭和五五年一月二〇日現在の相続財産総額は金五、四〇五、〇〇〇円であることが認められる。

したがつて、各当事者の取得額は、いずれも相続財産総額の三分の一に当たる金一、八〇一、六六六円(円未満は切捨て)である。

六分割方法

〈証拠〉を合わせ考えると、次のとおり認めることができる。

申立人は高校二年生、相手方花子は短期大学二年生であり、いずれも母乙山光子と同居し、同人により監護養育を受けており、乙山光子は、銀座六丁目でスタンドバーを経営している。別紙目録4記載の建物は昭和三九年ころ乙山光子及び被相続人の出捐により新築されたものであり、同人らは別紙目録3の建物からこれに移り住んだ。乙山光子は、新築間もなく、この建物の一部を改造して駄菓子屋をし、その後美容院を開業したが、健康を害し、申立人らを被相続人の実家に預け、妹の許に移り、昭和四五年二月一四日被相続人と協議離婚をし、申立人らの親権者を父である被相続人と定めた。しかし、その際、乙山光子は健康の回復次第、申立人らを養育する希望をもつており、このことを前提に被相続人との間に財産分与の話しが出されたが、協議が成立するまでに至らなかつた。その後、同女は健康を回復し、経済力もついていたので、昭和四七年夏ごろまず申立人を引き取つた。また、同女は、昭和四八年ころ被相続人から相手方花子を引き取り養育することを頼まれた際、被相続人に対し、別紙目録記載の各土地建物を同女に譲るよう求めたところ、被相続人は同女、申立人及び相手方花子らに譲りたいが、もう少し待つてもらいたいということで実現されないまま推移した。そして、同女は、本件申立後の昭和四九年秋ころ相手方花子をも引取り、親子三人で生活するようになつた。申立人の法定代理人である乙山光子及び相手方花子の特別代理人である柴田敬十は、いずれも別紙目録記載の各土地建物を申立人に取得させることを望んでおり、乙山光子は申立人及び相手方花子とともに親子三人で同目録4記載の建物に居住したい意向である。他方、被相続人は昭和四七年二月一〇日相手方はる子と婚姻し、同目録4記載の建物で夫婦生活を営んだが、その一年八か月後に死亡するに至つた。相手方はる子は、相続開始後東京都等から被相続人の死亡による退職手当金九、四二七、五八〇円、遺族年金(昭和四八年一一月から昭和五四年八月分までの分)合計金三、〇二二、五六五円(円未満切捨)及び朝日生命保険相互会社から生命保険金二、二九三、〇七〇円を受け取つており、また、玉井秀雄から別紙目録3記載の建物の賃料(昭和五三年二月一日以降は一か月金三〇、〇〇〇円)を受け取つている。

以上のとおり認めることができる。

これらの諸事情を考慮すると、別紙目録1、3及び4記載の各土地及び建物の各四分の一の持分権並びに同目録2記載の土地の一八四分の一の持分権は、いずれも申立人の単独取得とし、申立人には相手方はる子及び相手方花子の各自に対し、その代償金として、各金一、八〇一、六六六円の債務を負担させ、これに対し本審判確定の日の翌日から完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を付すべきものとする。

なお、相手方はる子は、共同相続人すなわち共有者の一人として別紙目録4記載の建物に居住し、これを占有しており、本件分割後上記建物を占有使用する権原がないところ、前記認定のとおり、乙山光子は申立人及び相手方花子とともに上記建物に居住したい意向である。したがつて、相手方はる子は申立人に対し、上記建物を明渡すべきである。

なお、本件手続費用中、鑑定人遠藤傳に支給した金九〇、〇〇〇円は各当事者の平等負担とする。

よつて、主文のとおり審判する。

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